インターネットガバナンス・タスクフォース Internet Governance Task Force of Japan

WGIG9月準備会合参加報告(10月13日)

 インターネットガバナンスについて検討する国連のワーキンググループ、WGIGの準備会合は、9月20日-21日にジュネーブの国連本部(パレ・デ・ナシオン)で開催され、IGTFからは、会津泉事務局長とアダム・ピーク幹事が意見書をもって参加しました。
 WGIG準備会合は、約280名が参加、21日の午後6時までの2日間の日程で開催、その結果は議長のニティン・デサイ国連事務総長特別補佐と、マーカス・クマーWGIG事務局長によって、10月初めに、コフィ・アナン事務総長に報告されました。以下に、会議の内容を報告します。なお、詳しい模様、資料は、WGIGのウェブサイトに掲載されています。 
 また、本報告のPDFファイルを、こちらに掲載しました。

エジプトの大臣が基調講演、チュニジアと中国も発言
 初日は、エジプトの通信・IT大臣、タレク・カメル氏の基調講演で始まり、最初のパネルで、チュニジアのインターネット・エージェンシーのCEO、フェリエル・ベジ氏と、中国の情報産業省の顧問で、インターネット・ソサエティ・チャイナの会長、フー・チェン氏が、公共政策、政府側の視点から発表した。二人とも、それぞれICANN会議のホストを務めたことがあり、それぞれの政府でインターネット政策を担当する高位の人物である。
 ベジ氏は、インターネットガバナンスの議論には、以下の視点が重要であると述べた。
 「・グローバルな視点 インターネットによるコミュニケーション、ルーティング構造、接続コストは、国境とは無関係に行われる。
 ・エンド・ツー・エンドの視点 多くのインテリジェンスは、エッジにある
 ・オープンスタンダード インターネットは、オープンな標準でだれでも利用できる
 ただし、インターネットは、単一ではなく、多くのヘテロジニアスな要素が複合してできているもので、政府は官僚的なアプローチでとらえ、途上国はITUがもっと関与すべきだと考え、民間、市民社会はそう考えていない。この視点の違いが、WGIGの設立を導いた。インターネットの発展、社会経済発展のツールとなることは保証すべきだ」
 ベジ氏はまた「WGIGは、ICANNの一般会員諮問委員会(ALAC)の取り組みと同じように、世界中の人々の参加を求める必要がある」と述べた。この部分はあまり注目されなかったが、筆者には驚きだった。というのは、筆者はALACの委員であるが、この場で、ALACについて評価する発言が出るとはまったく予想してなかったからである。

 中国のフー氏は、インターネットの発展に伴い、そのガバナンスも政府が主導すべき段階になったという点を強調したが、民間、市民社会の参加も重要とし以下のように述べた。
「インターネットの発展は、人々のニーズに応じて進められる。とくに最近では、インターネットは政府の関与を必要とするように発展してきた。当初の学術、軍事ネットワークから、あらゆる分野に不可欠な要素となった。インターネットは公共の利益が、かかっている、公共インフラになった。人々に生活への利便性を提供している。
 インターネットが、サイバークライム、著作権の侵害、スパム、有害なコンテンツを引き起こしているのも事実だ。社会秩序を妨害するものもある。したがって、公共機関、政府は、必要なアクションを行う必要がある。政府は、民間、市民社会と協力してインターネットの発展に協調すべきだ。
 インターネットガバナンスのあり方もまた変化すべきだ。最初は、ガバナンスは、自主ガバナンス、ボトムアップで、当時のニーズに合っていた。しかし、純粋な自主ガバナンスは、もはや十分ではない。
 政府には、インターネットガバナンスで果たすべき重要な役割がある。サミットの第一フェーズで、政府は重要な役割があると合意した。インターネット資源の国内の管理は、政府の主権下にあると合意した。
 われわれは、市民社会や民間の組織ではなく、政府が、公共政策において主導権をもつべきであると考える。政府がリーダーシップをもつべきで、それによって安全なインターネットが発展する。それは政府が支配的な統制を行うということではない。インターネットが順調に発展でき、民間、市民社会の利用が発展していくために、政府が関与するのだ。宗教、文化、言語の多様性などは十分に尊重する。政府の主導のもと、民間、市民社会が関与する新しいパターンのガバナンスが必要である。」
 このフー氏は、科学アカデミーの出身で、中国のインターネットの発展を当初から支援してきた政府・共産党の高官で、重要人物だとされている。あくまで政府主導であるとの主張は変えなかったが、民間、市民社会の関与については柔軟な姿勢をみせた。
 続いて、議論を構成するために、として、ジュネーブの貿易・持続的成長のための国際センターの研究者のビル・ドレイク氏、DIPLO財団のジョバン・クルバリジャ氏、シラキュース大学のミルトン・ミューラー教授が、インターネットガバナンス問題をどうとらえるべきかについて、それぞれ発表を行った。

一般討論:ブラジル、日本政府などのパネル発言
 午後は、一般討論で、自由発言が続き、筆者も、IGTF事務局長として、事前に提出した意見書の前半、スコープと原理について発表をした。2日目は、まず、パネルから始まり、ブラジル政府の代表が、以下のように発言した。
 「(ICANNの設立につながった)アメリカ政府の「グリーンペーパー」での提案に対して、EUは『アメリカの支配が強すぎる、もっと国際的な代表の参加する組織にすべきだ』と主張したではないか。EUにとって状況は変わったかもしれないが、途上国にとっては変わっていない。
 ICANNでは、明らかに公共政策に関わる問題でも、政府には助言の役割しか与えられていない。ICANNは、他の政府の事前の同意なく、勝手に設立されたものだ。インターネットについては、多くの公共政策に関わる問題が存在している。スパム、多言語、ローカルコンテンツ、相互接続、そしてデジタルデバイドなどだ。これらに政府がかかわるための国際的なコーディネーションの仕組みが欠落している。
 ブラジルは政府間フォーラムを提案する。既存の組織の代替をめざすものではないが、政府の意見を述べ、他とのコーディネートを行うものだ。多くの途上国はインターネット問題に関与できていない。マルチラテラルで主権国家同士が同じ立場で参加できる組織を求める。それによってはじめて正統性が確保される。ICANNはそうなっていない。
 インターネットガバナンスは、何よりも政治的な問題だ。WGIGも政治的なグループとして、国連事務総長のもとに設置される。政府が、その国を代表する唯一の正統な組織であり、そのもとで民間企業、ユーザー、NGOも代表されている。ブラジルでは、政府、企業、市民社会、研究者の21名の代表からなるインターネット全国執行委員会を設置し、インターネットの政策課題について協議している」
 ブラジル政府の代表は、こうして、他のセクターの参加も認めつつ、政府が主導権をとるべきだということを繰り返し主張した。

 続いて、日本政府代表、坂巻政明総務省データ課長が発言した。坂巻課長は、WGIGの構成を中心に、日本政府の意見書のサマリー、とくに日本のインターネット、ブロードバンドの発展を例に、政府も政策面の関与をしていると述べた。WGIGの構成については、バランスと効率性を重視すべきと述べ、インターネットの発展度合いの違い、地域の違いなども考慮し、全体では40名、半分が政府、政府間組織の代表、残り半分を企業、国際組織、市民社会から構成すべきだと述べた。
 「バランス」については、市民社会を中心に、政府、民間企業、市民社会がそれぞれ同数、3分の1ずつにすべきだという主張が強いが、日本政府は、政府系を半分にすべきだと主張したものである。

IGTF発言、引用される
 その後、ISOCのリン・セントアマーCEO、WSIS市民社会コーカス代表のジャネット・ホフマン氏が、WGIGの構成を中心に発表した。その後は、一般討論で、各国政府、国際機関、市民社会、民間などの代表が次々に発言した。そのなかで、モーリシャリス政府の代表が、IGTFの前日の発表の一部をそのまま引用し、これを全面的に支持する、と発言した。引用されたのは、以下の部分であった。
「WSISジュネーブ文書に記された目的を達成するために、WGは以下の任務を遂行すべきと考えます。
 a) インターネットの運用および利用において世界的な規模で検討する必要があると思われる課題の特定
 b) 基礎となる事実、参考となるデータや情報の収集
 c) すでに行われている活動の実態調査と、何が機能し、もしくは機能していないかに
  ついての評価およびその原因についての分析」

 WSISのジュネーブ・サミットの準備会合では、政府代表が、民間や市民社会の発言について直接言及するような状況はまったく存在していなかった。しかし、この準備会合では、議論のフォーマットも、政府、民間、市民社会のメンバーがとくに定まった順番もなく発言が許され、より自由な意見交換ができたことは注目され、評価できる。

 討論のなかで全体として合意が認められたのは、政府に加えて、民間企業、市民社会の参加が重要だという点であった。ただし、中国やブラジルなどは、あくまで政府が主導権はとるべきだということを一貫して主張した。もちろん、これに対して、民間の役割の重要性を強調し、現在の仕組みがうまくいっているところはいじるべきではないという主張も、繰り返された。

議長要約:広範な合意が実現、事務総長に内容を報告へ 2日間の討議は、最後にデサイ議長のまとめで締めくくられた。デサイ氏は主な合意点を要約する形で述べ、合意できなかった点も必ず解決が見つかると、楽観的にまとめた。

「多くの人の予想以上に、建設的な議論ができたと思う。この会合を交渉の場にする意図はなかった。政府、民間企業、市民社会の意見をお互いに聞くことによって、多くの人が異なる視点をもっていることはすべての参加者がよくわかったと思う。
 WGIGそのものも、交渉の場ではないことを頭に入れなければならない。本当の決定はWSISの準備会合とチュニスでのサミットで行われるのであって、WGIGは、その決定のプロセスがよりよく機能するように支援することを目的としている。そのことは頭に入れておく必要がある。
 準備会合とサミットには、政府に加えて、市民社会、民間企業なども関心をもって大勢参加する。これらの主体もすべてWGIGに十分に関与できなければいけない。WGIG自体は交渉の場ではないとしても、最終的には、交渉プロセスを経て実際の決定が実施されるのであり、すべての国と人々から信頼されるものでなければならない。それが、このWGIG活動の重要な点である。
 2日間で、異なる視点についてより鮮明な見方ができるようになった。私はすべての人が発言した視点を事務総長に伝える。
 いくつかの重要な考え方について、驚くべき一致もみられている。第一に、インターネットガバナンスについては、広範な問題を取り上げる必要があるということで、かつ他に行われている活動を考慮に入れ、すでに存在しているもののうえに築くべきということだ。インターネット資源、ネットワーク・セキュリティ、サイバー犯罪、スパム、多言語などが、とくにハイライトされたトピックだった。ただし、いくつかの優先度の高い問題に集中すべきという意見が多かった

 第二に、WGIGはマルチステークホルダーのアプローチに基づくべきで、その構成もそれを反映すべきということだ。この点は非常に鮮明で、異論はなかった。
 第三に、グループのバランスが重要だという感触も一般にあった。ただし、何をもってこのバランスが実現されるかという点については意見が異なっていた。多くの要素のバランスが必要だが、そのなかでも地域代表、ステークホルダー、ジェンダー、先進国と途上国、異なる考え方などが要素としてあげられた。

 オープンで、透明で、包括的なプロセスであるべきだという点で、広範な合意がみられた。過去二日間のようなオープンフォーマットでの定期的なコンサルテーションは、この目的に大きく貢献できる。われわれは、数人の専門家に課題を託し、6ヵ月後に報告を求めるというような、国連の伝統的な意味での専門家集団を考えてはいない。
 このプロセスには、早い段階から多くの主体とのコンサルテーションを進めるべきだというのも合意があった。希望する人が誰でも参加できるコンサルテーションを。とくに、インターネットを活用し、物理的には参加できない人でも意見を述べられる手段を取り入れるべきだと強調する意見も多かった。この点では、インターネット・コミュニティに学ぶことができる。

 ただし、『オープン・エンディド』、すなわち、誰でも参加できるWGIGという意見と、WGIG自体は20名ぐらいの小グループでなければ効率的な作業はできないという意見のギャップは大きいようだ。最終的な報告書も、コンサルテーションに参加した全員のものとみるのか、それともWGIGのコアをなす人々のものとみるのか、という点での意見対立も大きい。この点はそのまま事務総長に報告する。いずれにしても可能な限りオープンにするということは、重要と考えられる。
 コアのグループの数は、30から40名前後という提案が多かった。多くの代表が、グループは、実務、専門家のレベルにすべきだと発言した。構成について、政府、市民社会、企業から何名ずつがよいかについては、合意はなかった。いずれにしても、様々な要素のバランスをとることが重要であることは明らかである。最終的には、政府、市民社会、インターネット・コミュニティ、企業の代表からなるグループとして受け入れられることが必要だと考える。最終的には事務総長が判断する。
 政府および民間企業には、資金の提供をぜひ訴えたい。インターネットガバナンスに関するイベントや地域会合の開催も支援になる
 意見の違いはまだあるが、国連は、なによりファシリテーターとしての役割を務めるもので、それ自体で答えをもっているわけではない。このような会合によって、お互いに相手の意見を聞いて、自分の意見に取り入れていくことは、とても貴重な機会である。WGIGは少人数で報告書を起草することになるだろうが、こうした大勢の人々による会合は、インターネットガバナンスの問題を議論する上で効果があることが、過去二日の会議で実証された。
 これらの協議内容を事務総長に報告する。とくに中心は、WGIGのプロセスはオープン、透明、インクルーシブ(包括的)な必要があるということだ」

                    * * *
 こうして、WGIGの構成、討論内容などを決める上でもっとも重要とみられる準備会合は終わった。デサイ氏の要約は、少々楽観的に思われるが、少なくとも、昨年のジュネーブ・プロセスでの不毛な論争に比べれば、それぞれの意見が十分理由を交えて述べられる時間もあり、互いに意見を聞くという場として、大きな前進となったことは事実であろう。
 たしかなことは、「誰も全員を納得さえる答えをもっていない」ということであって、そのために、今後のプロセスが控えているということである。

その後 NYで報告、人選へ
 ジュネーブ会合後、10月4日の週、おそらく5日(火)に、ニューヨークで、マーカス・クマー事務局長およびデサイ議長によって、コフィ・アナン事務総長に報告が行われた模様である。そこでは、WGIGの候補者も含めた報告がなされたと考えられる。市民社会コーカスでは、9名を推薦する提案をクマー事務局長に送付している。

EUの非公式会合でプレゼン、ロンドンでも会合参加
 また、ジュネーブ会合の直後、10月22日に、ブラッセルで、EUのインターネットガバナンスに関する非公式会合(IGG)が行われ、会津は、マイケル・ニーベル氏(EC DGIS,インターネットガバナンス担当責任者)の依頼により、IGTFについての簡単なプレゼンを行った。そこには、デンマーク、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ、ノルウェー、リトアニア、イタリアなど、約20カ国ほどの政府代表が参加していた。

 9月24日にはオックスフォード大学インターネット研究所(OII)と、インターネット・ソサエティUKが主催して、ロンドンで、インターネットガバナンスに関する会合が開かれた。マーカス・クマーWGIG事務局長の基調講演の後、パネルには、ICANN前会長のエスター・ダイソン、WSIS市民社会のカレン・バンクス(APC)、同アダム・ピーク(GLOCOM)らが参加し、WSISを中心にインターネットガバナンスについての討議を行った。参加者は約80名だった。
 とくに注目すべき内容はなかったが、OIIのビル・ダットン所長が、今後もこのような会合を主催するとして、WSISへの関与に積極的な姿勢をみせた。

(文責:会津泉)